対話室その3 NPO法人日本武道修学院講習会 於 金沢大学体育館 平成25

講師・司会者 NPO法人日本武道修学院代表理事 恵土孝吉

助言者・特別参加者 全日本剣道選手権大会五回優勝 宮崎正裕先生

 

高校生A: 自分は稽古をしているときにいろいろ考えてしまうのですが、宮崎先生はいらないことを考えてしまった時どうされますか。

宮崎正裕先生(以下、宮崎):私の場合、高校生の時は一回でも多く勝つ、一本でも多く取るということばかり考えてやっていました。稽古と試合は分けて考えないが、やり方は違うと割り切ることが大切だと思います。稽古ではやってきたことをどんどん出すつもりで、打たれることを考えないで、次どう打とうかを常に考えてやっています。

 

大学生B:よく打ちが軽いという指摘をされるのですが、どのようにしたら強い打ちが出せるのでしょうか。

宮崎:私から見たら、日本のトップレベルの女子でも打ちが軽いなと思うことがあり、これをいきなり改善することは難しいです。ただし、竹刀のバランス、柄の長さ、足の踏み込み、といったところを自分に合うように研究するなど、努力は必要です。また、多少打ちが軽くても発声、体の勢いがあれば一本になります。足りない部分は自分の優れている部分で補うことも大切です。

 

大学生C:学生時代はどのようなトレーニングをされていましたか。

宮崎:剣道以外でしていたのは短距離と縄跳びくらいです。代わりに剣道はたくさんしていました。この考え方が合っているかは分かりませんが、剣道が強くなるには剣道をやることが一番だと思います。もちろん足りないところを補うためのトレーニングなども大切ですが、悪く言うと剣道に関係ない部分の筋肉もついてしまいます。トレーニングを否定するつもりはありませんが、剣道で体をつくることがいいと思います。

 

高校生B:試合の時に緊張しないためにはどうしたらいいでしょうか。

宮崎:緊張はだれでもするもので、しない方がおかしいです。全日本で入場行進があったのですが、私も入場行進の時点で足が震えていた覚えがあります。緊張するというのはそれだけ大きい大会に出ているということです。また、隙が無い状態とも言えます。緊張は悪いことではないですが、それによって実力が出せないということはないようにしたいです。わたし自身、緊張していた割に終わってみるとたいしたことなかったなと思うことが多々ありました。たくさん経験をして、自分で吹っ切れることができたらいいと思います。

 

司会者:私もそうですが、相撲で69連勝した双葉山関も土俵に上がる直前では、手などが震えたという事があったそうですよ。

 

大学院生:基本稽古の中で、大きく振りかぶる打ちと、実践で使うあまり振りかぶらない打ちがありますが、分けて考えているところなどはありますか。

宮崎:二つの打ちを分けて考えたことはありません。考え方も年代によって違うと思います。初心者などは大きく振りかぶるのが難しいと感じるかもしれないですし、ぼくにとって今は、刃を見せないで打つのが難しいです。みんなの年代では最短距離で素早く小さく打つことを意識するのがいいと思います。そのなかでかついだりするなどの変化をつけてみてはどうでしょうか。

 

大学生C:もし、日々の稽古が三十分しかできなくなってしまったとき、どうすればいいでしょうか。

宮崎:私はたとえ十五分の稽古でも準備運動をします。必ず準備運動、素振り、稽古の順で行います。けがしたら何もできません。体ができてないのに稽古をするのが一番だめです。絶対けがをしないように準備運動はおろそかにしないようにしています。

 

社会人A:自分は仕事の関係上、稽古の機会がなかなか持てず、自宅で素振りを行っている次第なのですが、実践に活かすために何か気を付けることなどはありますか。

宮崎:自宅に限らず、稽古をする際は空間だとうまく目標が定まらないので、ものを打つことが大切です。ものを打つことによって、手の内がつくれます。また、踏み込みを一緒にやることも効果的だと思います。

 

大学生D:学生時代の稽古はどんなことをされていましたか。

宮崎:ぼくの高校時代までのことについてざっと話します。剣道を始めた小学校の頃は町道場で一時間半の稽古をしていました。この頃は先生にともかく「面を打て。面が打てれば小手と胴も打てる。」と言われていました。面が一番遠いという理由からだったと思うのですが、言われるままに面打ちばかりしていました。中学は剣道の強いところに入りましたが、顧問が転勤で不在になってしまったうえに、二年生がいなかったので、三年生引退後は一時期部員が二人だけになってしまったこともあります。それに中学の時はどうしても周りに流されちゃうんだよね。だから中学時代は稽古らしいことしてこなかった。自分たちで考えてやったが、結果は出ず、予選で勝ったことがなくて区大会以外はでたことないし、初段は四回も落ちた。高校はやっぱり剣道が好きだったからインターハイ予選でも当時四年連続で決勝トーナメントに進んでいた強豪校に進学しました。その高校ではまず、練習についていくのが大変でした。試合で勝ちたいとかいろいろ考えると思いますが、まずは強くなるための練習に耐える力をつけることが大切だと思います。そのため、時間があったらともかく休養に努めていました。私は学校まで五回も電車の乗り換えがありましたが、ともかく座る席を見つけて寝ていました。授業では部活があるうえに通学時間が長く、勉強をする時間が取れなかったので、授業中に全部覚えられるように集中しました。わたしはなんといってもかかり稽古が自分の土台になっていると思います。当時の稽古も三分の一はかかり稽古でしたが、攻撃してくる相手を攻撃しかえし、対処することで力がつきます。いろんな技をいろんな人に打たれて分かることは多いです。稽古はとてもきつかったけれど、不思議と嫌にはなりませんでした。自慢じゃないけどぼくは高校時代の練習は一回も休まず皆勤賞でした。しかし、それでも足りないくらいやることはたくさんありました。学生時時代のことは話し出したらきりがないですが、みんなもいろいろやっていくなかで取り組み方を見つけていってください。

 

司会者:自分の試合のビデオを見る際に着眼点などありますか。

宮崎:ビデオはいろんな見方があるけれどぼくは主に、いいなと思った相手の研究のために使っています。注目する点は①つばぜりがあるか。そこからの技があるか。②出頭の技はあるか③胴を打てるか、です。この三つは防ぎにくいもので、①は油断さえしなければ防げます。つばぜりから打たれるのはミスです。②は打った時に体が出ていると防ぎきれません。③は面打ちの際に隙ができてしまうところです。後は、自分の試合で、勝った試合や、うまくいったものを何回も見ています。これはスランプの時に自分の自身になります。

 

高校生C:高校総体が終わって新チームになり、次の大会まで時間があるのですが、どのような練習をすべきでしょうか。 

宮崎:まずは前回のチームで何が良くて何が足りなかったか分析しましょう。剣道は人間と人間で戦うので絶対に不可能なことはありません。どこかに勝つ方法があります。それを探してみてください。

 

大学生E:試合の合間の過ごし方や食べるものはどのようなものがいいでしょうか。

宮崎:ぼくの場合、試合当日は水分しかとりません。負けた時点でたくさん食べるけどね。合間の時間が空けば素振りをします。試合後、アップ後は十分体が温まっているので面はつけないですね。休むことも大切です。一回勝つと「次はやられるんじゃないか」といった考えが出てきてしまうこともあるのでそれに打ち勝つようにもしています。

 

大学生F:宮崎先生は剣道を続けていく中で、なにか信念のようなものはありますか。

宮崎:試合の中でいい勝ち方や悪い勝ち方があります。その中でもぼくがこだわっているのは「反則」です。剣道は教育だという人もいますが、反則は禁止行為です。ルールは絶対守らなくてはなりません。ぼくはここ十五年ほど反則をしていません。自分のなかでいい剣道とは反則をしないことですね。

 

大院生:二点質問があります。一点目ですが、自分は力が入ってしまってうまく技が出せないことがあるので、力を抜くコツなどがあったら教えて頂きたいです。二点目は今までで一番悔しかった試合、または印象に残った試合はどのようなものか教えて頂きたいです。

宮崎:一点目として、力を抜くことは難しいですが、反復して繰り返すことが大切です。自分を信じないと技は出ません。自分に打ち勝てるようにしてください。二点目として、悔しかったのは全日本三連覇をかけた試合ですかね。自分では当たっていると思ったけどだめでした。惜しい技出した時っていうのは惜しくないんだよね。そのあとの試合ではチャンスが来るまで辛抱して余計なことしないようにしたんだけど、結局面にとべなかったこともありました。

 

大学生G:チーム編成の際に意識していることなどありますか。

宮崎:ぼくは全日本女子の団体のチーム編成などもしますが、必ず一番強い人を○にします。次に強い人は○○にして絶対取ってもらいます。中堅は、はっきり言ってチーム内で一番になります。将は考えることが出来る人、計算ができる人にしています。(残念ながら、今後のこともありますので、チーム編成の件、肝心なところは○○とさせていただきます)

 

高校生F:自分にペースが来た時にうまく活かせないのですが、どうしたら有効に使えますか。

宮崎:普段の練習では気持よりも技術について考えた方がいいと思います。例えば入り(司会者解説、攻め)、技を出すときです。打った後も相手が次に打ってくると思ってやるのがいいでしょう。

 

司会者:最後に参加した剣士にアドバイスをお願いします。

宮崎:平成二七年五月に全日本女子の監督を務めさせてもらいました。もちろん限られたメンバー数ですから已む得ず選手の振り落としも行いました。その中で思ったのは、どんなに強い人間でも隙があります。そこをつめていきましょう。例をあげると、打った後に左足のかかとが床にぺたっとつく人がいます。これは油断の表れです。地味ですがこういった隙を埋めるのが大事です。

自分の弱点、パターンは自分の目で確認し、やっている中で改善していきましょう。

剣道に絶対はありません。防具のつけ方、素振り、メニュー、体重のかけ方など、様々な面においてもっといい方法はないか、常に一番良いものを求めていってください。